:騒がしい鍵


『カギなんて初めっからなかったよ』

ぶっきらぼうに“彼”が言う。

そんな“彼”を見下ろしながら僕は構わず問いかける。

「でも、そこに鍵穴はありますよ?」

『鍵の形をしてるからって、それが鍵穴だなって決まっちゃいない』

「でも、そこはドアですよね?」

『とってが付いているかといって、それが開くとは限らないさ』

「でも、あなたはそこからここへ来たのでしょう?」

『誰がそんなことを言ったのか知らないが、俺はずっとこっちの方さ』

「でも、最初はここにはいなかったでしょう?」

『産まれてこの方、ここ以外にいた覚えはないね』

「なら、やはりそれは鍵穴ですね」

『あんたいったい俺の何を聞いてたんだ?鍵なんて初めからなかったって言っただろう?』

「確かに、あなたにとってはないかもしれない」

『それにこれは、ドアなんかじゃないんだ。取っ手だって付いてない』

「確かに、あなたにとってはそれが一番かもしれない」

『俺は生まれた時からここにいるんだ。けれども鍵なんて見たことは一度もないんだ!』

「確かに、あなたには見えないかもしれないし、産まれた時からここにいたのでしょうね」

『あんた一体、何が言いたい!?』

「僕の言いたいことはたった一つです。この扉を開けて下さい、出口の“鍵”さん?」

そうして笑う僕の前で、騒がしい“彼”はしゅんとなって小さな小さな鍵になった。




_[ 2008/04/28 茶々紅. Last up:2008/06/22. ]

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:魔法の鍵


アタシに開けられないドアなんかありゃしない。

鍵を無くしたドアだって

時を経て硬く閉ざされてきたドアだって

アタシにかかればあっという間

開かずの間だなんてそんなもの

無力な鍵が創った幻なのさ。


アタシは鍵。魔法の鍵。

昔の偉大な魔法使いが

杖をふりふりちょちょいと作った

何でもかんでも開けちまう鍵。

ある日ある時ある国の、王様困って魔法使いを呼んだ。

「こっそりこっそり秘密に開けよ。さすれば褒美は山ほどに」

「お安い御用」と魔法使い

アタシを使って王様の大切な宝部屋をカチリと開けた

そしたらどうさ、後から後からあふれ出したは王様の欲。

それはあっという間に国中埋めて、とうとう全てが欲の塊。

その時ぽつりと初めて思ったよ。

世の中,世界にゃ開けちゃならないものが一つや二つ

なけりゃ上手くは回らないって。


アタシは鍵。魔法の鍵。

何でもかんでもあけちまうけれど

何でもかんでもあけやしない。

鍵をかけてそーとずっと、

開けちゃならないものは開かずのままで。

幻は幻のまま夢のまま。




_[ 2008/05/28 茶々紅. Last up:2018/10/19. ]

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:片道切符


今日、最後の列車に乗る。

行き先は不明。

切符は最初から持っていた。


思えば、列車に乗ってばかりの人生だった。

目が覚めてから眠るまで

飽きることなくレバーを握り

眼前に流れる見慣れた景色に

神経を研ぎ澄ませる毎日。

それでもそれが

私の全てで 誇りだった。


それが、今日終る。


レバーを握れなくなった日。

ホームに立てなくなった日。

大切な何かをなくした日。

一人きりの日々。


それが、今日終る。


ゆっくりと開いた扉の向こう

変わるはずのない車内に

一歩足を踏み出した途端

ふわりと春の風が舞った。


降り立った先は懐かしい記憶の中の駅。

そしてなにより

目の前で微笑む一人の女性。

それは何よりもよく見知った顔で。

最後に見た時よりも

見違えるほどに若返った彼女が

揺れるように紡いだ言葉。


「おかえりなさい」


そうして私は知った。

待ち望んでいた最終着駅に

自分はやっと、帰ってきたのだと。


被っていた帽子を脱ぎ

そっと胸に抱いて私も笑う。

そうして


「ただいま」


――今日、最後の列車に乗る。

行き先は“私”という終着駅。

切符は生まれた時から持っていた。

もう、戻ることのない

それは 片道だけの自由切符。




_[ 2007/01/11 茶々紅. Last up:2018/10/22. ]

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:ハロウィーンパーティー2006


おいらはジャックランタンのジュラ。

ハロウィンの夜、真夜中に起きている子供を捕まえて

ハロウィンパーティーに誘い出すのが仕事。


お化けも魔女も吸血鬼も、今夜だけは歌って騒ぐ。

楽しい、楽しいハロウィンパーティー!

おいらと一緒に行ってみないかぃ?

おいしいおいしい、お菓子もたくさん!

なぁーに心配はいらないさ。

おいらがいれば、暗い夜道もへっちゃらさ!


おいらが唱えて誘えば、どんな子供も笑顔でうなずく。

楽しい、楽しいハロウィンパーティー。

いっぱいのお菓子に、見たこともない料理。

セイレーンが歌えば、みんなうっとり聞き惚れる。

シーツをかぶってゆぅらり揺れれば、

ほら! もう、君もお化けの仲間入り!!


…ただし、一つだけ忠告するよ。

こいつはお化けのパーティーだ。

それだけは忘れちゃいけない。

もしも忘れてしまったならば……

もう、人の子には戻れない。


忘れるなよ、人の子よ。

これが最後の忠告だ。

…え? 今更遅いって?

なぁに、お化けの暮らしも悪くはないさ!




_[ 2006/10/03 茶々紅. Last up:2018/10/19. ]

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